ハーモニー

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

カバーデザイン : 水戸部功

720円

文庫本 : 384ページ



半世紀前に起きた大災禍(ザ・メイルストロム)によって世界中に核弾頭が落ち、放射能によって癌が発生、未知のウイルスがはびこる。そこで世界は政府を単位とする資本主義的消費社会から、健康を第一に気遣う生府を基本単位とした医療福祉社会へ移行する。
Watch Meと呼ばれる恒常的体内監視システムが、分子レベルで健康を保ち、幸福と平和を保つユートピアを築く。人間に潜む痛みや悩みを外注に任せた後に残る『夢も希望も忘れたユートピア』で起きる混乱は、果たして悪夢なのか。

人間は絶えず「自然」を抑え込んできた。
都市を築き、社会を築き、システムを築いた。
全ては自然という予測不可能な要素の集合を、予測し統制する枠組みへと抑え込もうとする人間の意思の現れだ。そして人間は、核と疫病の時代を生き延びるために、最後に残された自然を抑制しようと試み、それにおおむね勝利している。
〈中略〉
そして、脳もまた肉体の一部である以上、それを制御してはならない根拠など、どこにあるだろうか。

痛みや苦しみの無い(そのため夢も希望もない)ユートピアに、人を自殺に追い込むシステムが動き出す。



文庫本の装丁は、カバーも帯も真っ白で、デビュー作で真っ黒な装丁の「虐殺器官」と対をなす。きっと、これ以上ハマるデザインは無いと思う。
と、同時に、闘病生活のさなか痛みのまっただなかで書いていた作家を思わずに居られない。
(2009年3月20日逝去されました)