尼僧とキューピッドの弓

尼僧とキューピッドの弓 (100周年書き下ろし)

尼僧とキューピッドの弓 (100周年書き下ろし)

装幀:吉田浩美 吉田篤弘クラフト・エヴィング商會
1,600円
上製 240ページ
カバー : ? タイトル、イラスト 箔押し
帯 : マーメイド?


熟年の尼僧たちと彼女たちを取材した主人公の「わたし」の、修道院での暮らし。慎ましく、静かな日常の中ににじみ出る、女たちの個性が描かれる。しかも、和名のあだ名付きで。

ドイツの修道院が舞台だが、作中に出てくる『弓』は日本の弓道のもので、カバーイラストには違和感が残る。
尼僧院長は、修道院弓道の指導をうけ、その指導員と駆け落ちしてしまうのだ。修道院で、サムライの道具なんて! と尼僧は言うが、弓道は実践向きのものではなく、集中を促すための鍛錬である。イラストのように弓を斜めに持つ事などしないし、的にあてる事が目的ではない。(型を重視するため)
そんな鍛錬のさなかに尼僧が恋に落ちてしまうので、タイトルでもあるキューピッドが出てくるのだろうけれど、表現で使用される「ハートを射抜かれる」のは『矢』であって、タイトルは『弓』である。
というあたりの違和感と、取材そのものが小説になっているように感じる違和感がシンクロして不思議な読後感である。
第一部の主人公が日本人の「わたし」である事は、第二部で空気感を替えるための演出なのだろうか。

そして、若干の意地悪を。

ねにもつタイプ (ちくま文庫)

ねにもつタイプ (ちくま文庫)

カバーデザイン:クラフト・エヴィング商會
600円
単行本 228ページ

ちくま文庫なのに、雑誌「ちくま」に掲載されたのに、講談社エッセイ賞を受賞した一冊。
止めどなく溢れ出す妄想に混じり合う現実に見覚えがあると感じた瞬間、次を読みたくなってしまう。中毒性あり、注意されたし。